日別アーカイブ: 2016/07/06

緊急事態条項の前に決めることがある

日曜日は参議院議員選挙

次の日曜日は第24回参議院議員選挙が行われる。

選挙の争点にはなっていないようにも思えるが、連立与党で2/3以上の議席を獲得できた場合、安倍政権は緊急事態条項を突破口に改憲論議を進める可能性が高い。

憲法のあいまいな部分をそのままにしてきた日本人にとって、憲法について議論を深めることは非常に重要であると思うが、大多数の国民の関心がまだそれほど高くない状況での改憲はやはりどうかと思う。

危機管理を真面目に考えるのであれば緊急事態条項の前に決めることがあるのではないのか?という問題提議をしたい。

小渕首相、脳梗塞による昏睡状態に陥る(2000年4月)

小渕恵三元首相が急死してからもう16年も経ってしまった。

その際のバタバタはまさに日本の危機管理上の重大な問題を明らかにしたのだが、残念なことに現在に至るまでその教訓は生かされていない。

以下時系列で振り返ってみたい。

参考文献等:

2000年4月1日

  • 午後、記者団からの質問に対して小渕首相(以下肩書きはすべて当時)10秒前後の不自然な間。
    この時既に軽い脳梗塞が発症したがすぐに回復したと思われる。

4月2日

  • 午前1時頃、首相順天堂大学医学部附属順天堂医院に緊急入院。
  • 午前2時頃、古川首相政務秘書官から青木官房長官に首相入院の連絡。
  • 午前6時頃、主治医が青木官房長官を訪問。
  • 午後0時頃、緊急事態を受け、青木官房長官、森自民党幹事長、村上自民党参議院議員会長、野中自民党幹事長代理、亀井自民党政調会長の五人がホテルニューオータニ(赤坂プリンスホテルとの説もあり)で会合。首相臨時代理の設置や後継問題が動き出す。
  • 午後7時頃、官房長官順天堂医院を訪問し、病床の首相と一人で面会
  • 午後11時、官房長官が緊急記者会見。「小渕首相が体調不良で入院した」旨を正式に公表。

4月3日

  • 午前0時頃、青木、森、村上、野中、亀井の五人が同ホテルに集まり、青木官房長官が内閣総理大臣臨時代理、後継首相は森喜朗を決定、内閣総辞職、衆参本会議及び組閣日程を確認。
  • 午前6時過ぎ、保利自治大臣兼国家公安委員長(警察・消防という危機管理システムのトップ)が、新聞で首相入院を知った夫人から初めて事態を知らされる。(官僚からの報告はそれまでなし。)
  • 午前11時、定例記者会見で青木官房長官は、小渕首相は「脳梗塞」であると病名を初めて公表し、小渕首相の指定に基づいて自身が首相臨時代理に就任したと発表

4月4日

  • 午後7時、憲法第70条に基づき内閣総辞職。

4月5日

  • 午前、自民党両院議員総会で森総裁選出。
  • 午後、衆参両院本会議で森首相を指名、夜、森内閣が正式に発足。

5月14日

  • 午後4時7分、入院から43日後一度も意識を回復する事のないまま小渕首相死去。

五人組による密室談合政治との批判

当時、森首相決定に至るプロセスの不明確さや青木幹事長が昏睡状態と思われる小渕首相からどのように臨時代理指名を受けたのか等、この5人以外にはわからないことが多くあったので(もちろんこの5人にとっては墓場まで持っていく秘密なのであろう。)「五人組による密室談合政治」という批判が巻き起こったが、あいまいなまま終わってしまった。

しかし、総理大臣が臨時代理予定者を指名せずに職務不能に陥ることを避けるため、森内閣以降組閣時などに内閣総理大臣臨時代理の就任予定者5名をあらかじめ指定(官報掲載)するのがとなった。

アングロサクソンの危機管理に学べ

このように、首相が職務不能に陥った場合における臨時代理の指名という重要な問題にも関わらず、さらに政権交代を経験したというのに16年経った今でも、法制化されることなく慣例として対応しているというのは驚くべき政治の怠慢という他ない。

これに対し、アメリカでは万一大統領が職務不能に陥った場合の職務継承順位がなんと17位まで規定してある。アメリカ合衆国大統領の継承順位 (Wikipedia)

その他、上述の「危機管理の死角」には、あらゆる事態を想定したアメリカ合衆国政府の危機管理の現状を詳細に紹介してある。

その根底に流れるのは「ひとつのバスケットに卵を入れるな」という格言に表される「リスク分散」の思想である。

「危機管理の死角」の中で小川氏は首相の職務継承順位をアメリカ並みに13位まで拡大することを提案している。

日本にも皇位継承順位や日本相撲協会の海外巡業(必ず2機に分乗する)等リスク分散の思想は根付いているはずなのだが、「行政府の長」(立法府の長ではない)が職務不能となった場合の危機管理体制が不十分であるという危険性を放置したまま、国民の行動と権利を制限する緊急事態条項を憲法に盛り込むというのは順序が逆なのではないだろうか?