軽井沢スキーバス転落事故から1ヶ月
多くの若い命が失われた軽井沢スキーバス転落事故から今日で1ヶ月経った。(産経新聞)(朝日新聞)(Wikipedia)
記事にもあるようにこの事故には不可解な点が多いが、運転手が死亡していることで原因究明は困難を極めている。
直接的な事故原因は制限速度50km/hのところを事故現場から250m手前の左カーブに80km/h以上でさしかかり、しかもギアがニュートラルの状態でフットブレーキのみによる減速が十分できない状態で、センターラインを右にはみ出しながら大きく蛇行し左ガードレールに接触、その反動で右側に傾きながら右ガードレールを突き破って転落というものだった。
悪者探しでは真実はわからない
このような悲惨な事故が起きると「運転手のミス」から始まって、「運行会社が悪い」「ツアー企画会社が悪い」「規制緩和した政府が悪い」のような悪者探しが始まり、しばらく盛り上がった後芸能人のニュースなどが報道されると世間の関心は下火になり、いつの間にか忘れ去られる。
ただし、それでは犠牲者たちが浮かばれない。原因不明で終わらせるのではなく、事故に至ったあらゆる可能性を検討し対策を立てる必要がある。
なぜギアがニュートラルだったのか?
ギアがエンジンブレーキが効くポジションに入っていたら、速度が過大に超過することなくカーブを曲がり切れたかもしれない。報道等にあるように事故の衝撃でギアが衝突後にニュートラルに入った可能性も否定できないが、衝突の手前からニュートラルに入っていたとすると2つの可能性が考えられる。
シフトダウンができずに運転手がパニックになった
朝日新聞の記事の図にあるように4速から3速へシフトダウンする場合、いったんクラッチを切ってからギアをニュートラルの位置を経由してギアを3速に入れる。
大型車の運転経験がないので聞いた話だが、シフトダウンの際はエンジンの回転とギア比が合っていなくて低速ギアに入りにくい場合がある。そこで、いったんニュートラルでクラッチをいったんつないで回転数を合わせた後、シフトダウンするという「ダブルクラッチ」を行うことがある。
死亡した運転手は大型バスの運転経験が浅かったため、ギアが入らないことでパニックに陥ったのかもしれない。
意図的にニュートラルにして下り坂に突っ込んだ
エンジンブレーキを効かせるとタコメータが示すエンジンの回転数が通常時より上がることがわかる。回転数が上がると素人考えではその分燃料を消費すると考えがちだが、実はエンジンブレーキ中は燃料がカットされるので結果として燃料の節約になるそうである。
運転手がそのような基本的な知識を持たず、故意にニュートラルにして燃料を節約しようとしたのであれば悲劇である。そのように示唆した先輩・同僚がもしいたとするならばその罪は大きい。
なぜ高速道路を通らなかったのか?
Wikipediaによると、事故が起きたツアーでは、会社側が運転手に対して作成する「運行指示書」にルートの記載がなく、出発地と到着地しか書かれていなかったそうである。つまり、ルートの選択は運転手の判断に任されていることが常態化しており、高速代を節約させるために運転手が一般道を選択した可能性は十分考えられる。
運転手への報酬は経費込みで支払われるため、運転手は高速代と燃料代をその中から負担していたという報道もあった。そのような構造の中では運転手が手取りを確保するために安全を犠牲にして経費を圧縮していたということは十分考えられる。
シートベルトをしていた乗客が少なかった
犠牲者のうちシートベルトの着用痕がはっきり確認できたのは一人だけだったそうで、大半は未着用だったため投げ出された衝撃で即死状態の人だったそうだ。
乗務員がシートベルトの着用を促していなかった疑いもあるが、シートベルトの着用は罰則で強制させられるようなものではなく、乗客が自発的に着用することが本質的な事故防止(軽減)策につながる。
交通従事者の所得を保障せよ
乗客の安全を直接預かる運転手が手取り額を気にして安全を後回しにするような仕組みは根本的に間違っている。深夜バスのように肉体的にも精神的にも負担の多い職業は法律で十分な給与を保障するべきだ。
経済的に余裕のない大学生が廉価なバスツアーを選択したことで悲劇に巻き込まれたのだが、簡単に命を危険にさらす可能性があるものに関してやはりある程度のコストを覚悟するような社会にならないと、このような事故は忘れたことに必ず起きるのではないか。
LCCの台頭でパイロット不足が深刻になっていて、航空会社は高給で引き止めないと必要なパイロットを確保できない状況だそうだ。
大型バス運転手にこれと同じ構図を当てはめることは難しいと思うが、二度とこのような悲劇を繰り返さないように、国は緩めた規制を戻す方向を考えた方がよい。